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ゲノムの歩き方(用語解説)

DNAシーケンス技術の初期段階

 核酸の本格的な塩基配列決定は、まず1960年代~70年代にかけ、tRNAなどの低分子RNAを対象に、RNA分解酵素による塩基特異的切断特性と、クロマトグラフィーや電気泳動による核酸の分離同定技術の組み合わせで配列決定が行われたのが始まりです。やがて放射性同位元素による標識技術も導入され、高速化と微量化が進みました。

 DNAの配列決定技術の開発は、RNAの場合と異なり、適当な塩基特異的切断特性を示す酵素が見つからなかったため、当初は時間がかかることが予想されていました。そのため、長いDNA分子の塩基配列決定を行うためには、RNA合成酵素でいったんRNAに転写したのちに構造解析が行われていました。短いDNA断片の場合には、電気泳動法とクロマトグラフィーを組み合わせた特殊な分離技術を用いて配列決定を行うこともできましたが、読み取れる配列長はせいぜい十数塩基にとどまっていました。

 こうした状況は、DNA分子を配列特異的に切断する制限酵素の発見と、その後の試験管内組換え技術の出現により、一変することになります。1977年に、DNA分子の末端標識、塩基特異的化学切断、変性ゲル電気泳動を組み合わせたマクサム・ギルバート法と呼ばれるDNA塩基配列決定技術が開発されたためです。この技術は、試験管内組換技術と合流し、分子生物学を真の意味で分子を取り扱える科学に変貌させる原動力となりました。当時の生物学者にとって、そのインパクトは絶大なものであり、マクサムとギルバートによる論文が発表されるころには、すでに世界中に実験法が広まっていたほどです。

 しかし、マクサム・ギルバート法はDNA分子の標識にかなり多量の放射性同位元素を使用する上、化学切断に使用する試薬も毒性が強かったり不安定であったりするなどの欠点がありました。その弱点を解消し、後の自動化シーケンサの基本技術となったのが、DNA合成酵素とジデオキシヌクレオチドを用いるサンガー法です。サンガー法の論文発表はマクサム・ギルバート法と同じ1977年でしたが、一般化したのはジデオキシヌクレオチドが広く市販されるようになってからでした。